Carlota Perez, 2002, Technological Revolutions and Financial Capital: The Dynamics of Bubbles and Golden Ages. (Edward Elgar) へのコメント:
これまでに5回あった技術革命が経済の長期波動(いわゆるコンドラチェフ波)とどう関係しているのかを論じてきたのが,いわゆるネオ・シュムペーテリアンの経済学者たちで,日本では弘岡正明氏の著書が代表的である.ペレスによるこの本はその決定版のような性質を持っている.
彼女の議論は長期波動とそのタイミングを正確に説明するものではなく,歴史的に繰り返された長期波動の背後にある力学を析出しようとするものである.ともすれば,革命的な技術とその普及が経済を押し上げるという単線的な議論がなされがちだったが,彼女の認識はその単純さを免れている.力点は次の2点.(1) 金融は当初は,新たな革命的技術を爆発的に発展・普及させるのに役に立つという意味で,産業と階調を保って進むが,次第にバブルを生むようになって産業にとって非生産的な意味を持つようになる.(2) 社会経済制度が構築されて初めて,革命的な技術は社会的なインパクトをもたらす.ちなみに彼女の認識は,金融化を促進した新自由主義的政策は,ICTを技術的に発展させるという使命をすでに終えており,ICTを社会的に有用な方向(例えば環境負荷の低減)に展開させるような制度構築が必要だというものである.
この本の出版は2002年だが,現在もなおこの課題は持ち越されているように思われる.だが,欧州連合で展開されつつある「ミッション指向型イノベーション政策」や,あるいはその代表的な論者であるMariana Mazzucatoの議論も,このペレスの議論の影響下にあることは明らかである.その意味では,技術と社会・経済の関係を現在において見通すうえで,今なお鋭い示唆を持つ書物だと思う.