先進資本主義の多様性というのは,特にHall and Soskice (2001)を嚆矢とする比較制度論ないし比較資本主義論の主要テーマだったと思う.彼らの分析と主張は画期的だったが,それ以降,Thelen (2014)のembedded flexibilization論や,Baccaro and Pontusson (2016), Hassel and Palier (2021)の成長モデル・成長レジーム論など,多様性の新しい様相を捉えようとする研究が進んできた.しかし,以下の2つの表が示す通り,先進資本主義国の多様度は,こと経済成果に関する限り縮減している.経済成長率は,特に世界金融危機以降,各国とも共通して停滞している.労働生産性上昇率の方も,各国とも共通して極めて低水準に停滞している.
こうした状況を見ると,制度的な違いにもかかわらず,経済停滞が共通して見られるというのが,先進資本主義の近年の動向であるから,先進資本主義国の共通性を問題にしなくてはならないようにも思われる.事実,Streeck (2010) Re-Forming Capitalismは,資本主義としての共通性に焦点を当てた分析が必要だとする議論を,早い時期に打ち出していた.むしろ現在だと,先進資本主義諸国と新興資本主義諸国の質的相違こそが,比較資本主義論の研究課題なのかもしれない.しかしながら,腐敗した富裕層がシステムの宿痾になっているという意味で,大いに共通性を持っているのも事実だろう.