(承前)
政治勢力的に見ると,これまでベーシックインカム構想を最も熱心に支持してきたのは緑の党(Vihreät)であり,左翼連合(Vasemmisto)もどちらかと言えば支持してきたとされる.特に緑の党のOsmo Soininvaara氏は熱心な擁護者であったとされる.とりわけ緑の党は,選挙公約にしばしば「ベーシックインカムの実現」を掲げてきたという経緯がある.
それ以外の政党はどちらかというと,ベーシックインカム構想に冷淡だったとされる.ベーシックインカムに強く反対する労働組合と公務員を主な支持母体とする社会民主党(SDP)は,伝統的にベーシックインカムに反対してきた.他方,中央党(Keskusta)や国民連合党(Kokoomus)といった中道保守政党は,反対ではないものの不熱心というスタンスであった.すなわち,少なくともフィンランドについて言えば,「左派政党が賛成し,右派政党となるほど反対する」というような単純な政治的構図ではなかったようである.
大変興味深いのは,自由放任を信奉するBjörn Wahlroos氏(巨大金融グループであるサンポグループの取締役会長)は,早くも2001年の段階ですでにベーシックインカム構想に賛意を表明していることである.彼の論拠は,「短期雇用契約が増えてゆくのは不可避だから,そういう新しい状況の下で雇用の不安定性と貧困を解決する有力な方法である」というようなことである.このことからも,ベーシックインカムが必ずしも左派・リベラル派の「専売特許」ではないと気づく.
しかし,ベーシックインカム構想を支持する政党が提示する給付額は,生活を維持するには概ね低すぎるものだったのも事実である.例えば緑の党は月額440ユーロ,左翼連合は620ユーロを提案していたという.上記のBjörn Wahlroos氏の提案は月額850-1,000ユーロが必要だというものであった.さらに参照したHelsinki Timesの記事(後出)の計算によれば,貧困を根絶するためには月額1,166ユーロが必要だということであった.
(以下,続く)
(付記その1)政党支持の動向について付記しておくと,12/18付Helsingin Sanomat紙は,最新の支持政党調査に基づき(TNS Gallup実施),社会民主党への支持率が急上昇し(21.1%),中央党(20.9%)とトップで並んでいると報じている.記事から抜粋した右のグラフのピンク色が,社会民主党(Sdp)への支持率の推移である.この背景には緊縮政策への不満があるという分析を,この記事は引用している.なお,連立政権を組む中央党はKesk,国民連合党はKok,真のフィンランド人党はPsである.
(付記その2)国営放送Yleの記事によれば,大晦日に発表された首相の年頭メッセージは,さらなる財政支出削減を予告している.そのうちには,後に触れる予定の「社会保健制度改革」による支出削減40億ユーロが含まれている.また,主に労働市場改革によって単位労働コストを5%低下させて国際競争力を増すことによって,20億ユーロの税収増を見込んでいるとされるが,それが実現できない場合は,2017年春からのさらなる緊縮財政によって20億ユーロを確保するつもりだという.本稿の最後に書くつもりだが,少なくともフィンランドにおいては,ベーシックインカム構想はこうした一連の新自由主義政策の文脈と切り離しては評価できないのではないだろうか?