Bob Hancke(2009) Intelligent Research Design (Oxford UP)

覚え書きとして書きとどめておく.研究法は分かっている「つもり」だったが,そうでもない.いざ学生に説明しようと思う時,この本はとても有益なリファレンスだった.


(序章)

・事実はそれ自体何も語らない.それを意味付ける新しい理論があって初めて意味を持つ.これが,経験的な社会科学の考え方.

・観察と理論を対応付けることが,研究デザインの中心である.

・研究の問題は「存在」するのではない.作り出されるもの.しかも,理論的なディベートと強い関連性を持って作り出されるもの.

・研究とは,よりよい議論(argument)を作り出すもの.


(第1章)

・研究デザインとは,(単なる)アイデアを,確実な議論に変換するためのものである.

・社会科学は,deep structureを探求するものではない.

・研究はディベートの形式を取るものである.しかも,あるパズルを解くものでもある.パズルは与えられるものではない.構築するものである.

・科学論的に言って,議論の単なるサポートは研究とはならない.

・何を研究しているのかと尋ねられたら,「・・・について研究している」と応えるのではなく,「・・・という問いに答えようとしている」と答えるようにする.こうすることで,「問い」を明確に意識できる.

・問いは,反証可能でなくてはならない.また単純明快でなくてはならない.

・文献レビューは,対抗する「答え」を構築するために行う.つまりディベートを構築することがレビューの目的.レビューは短期間で,分析的に行う.だらだら網羅的に行うものではない.必要に応じて.

・データはfor exampleではない.それではargumentにならない.対抗馬を反証し,同時に自分の理論をサポートするような事例を見つける必要.「もし自分が正しくて対抗馬が間違っているとするならば,私は何を見つけるべきか?」「もし自分が誤っていて対抗馬が正しいとすれば,何を見つけるべきか?」

・問題を構築することが研究の過半の努力.問題は研究の最後に完成する.

relevantな問題を立てなくてはならない.「だからどうした?」と,自問自答してみる.

・問題を立てる上で,パズルを見つけることが大事.これまでの理論では解けない,体系的な観察がパズルである.それは単なる観察ではない.既存理論と関連付けられた謎だからこそパズルなのである.

・問題は,その答えが反証可能となるものでなくてはならない.また,既に生じた物事に関する問いでなくてはならない.


(第2章)

・統計的分析はある変数の限界的な効果を問うものだが,事例分析は複数要因の組み合わせ(configuration)がある結果に帰結することを問う.

・事例は,より広い問いに対しても光を当てるものでなくてはならない.事例選択の基準を明確にする必要がある.それによって,他の人が意見をいうことが初めて出来るようになる.

・事例は空間的・時間的に限定されている必要がある.その限定はロジカルになされている必要がある.

・事例間の比較可能性にも注意を払う.

・事例が持つ「次元」の数も大事.比較を考える場合,次元が一つなら事例数は2つでいいが,次元が二つだと,事例数は22=4個必要.


(第3章)

・「この事例は何の事例か?」ということを常に考える.より広い文脈に事例を置く必要があるということだ.

・単なる理論の描写として事例を用いるのも確かにケーススタディだが,弱い意味でそうであるに過ぎない.理論と結びついてこそだ.

process tracing case studyは,単一ケースを使うのだが,そこで作用している因果関係を把握することに力を注ぐ.例えば,代替仮説のどれが当該事例と首尾一貫しているかを確定することによって,危機時の政府の行動原理に説明を与える,キューバ危機の分析.

critical case studiesは,理論を反証する.だが反証だけではなく,既存理論に修正を施す.つまり別のargumentを与える.これは実は,既存理論が含意するバーチャルな事例と,自分の事例を,インプリシットに比較していることを意味する.

・比較研究は,単なる並列ではない.積極的に何かを言う.直感に反するパラドックスとして,複数の事例を設定することは,比較研究を設定する有力な方法.


(第5章)

・イントロダクションで,「何の問いにどう答えようとするのか」を明確に言う.

・「先行研究にないから」は,ダメな研究理由.文献は,自分の問題を理解する助けとして「使う」もの.

1段落には一つのアイデア.